政令指定都市/地方公務員(土木職)の思慮

現在26歳。若手公僕が仕事・社会の雑感を綴る。

【読書メモ】『技術公務員の役割と責務~今問われる自治体職員の市場価値~』土木学会/建設マネジメント委員会/技術公務員の役割と責務研究小委員会編

地方の活性化のため、地方分権を進めるべきという世論がある。技術公務員は、その期待に応えるため、地元のニーズを踏まえた住民への説明力や判断力のレベルを高めなければならない。

「無駄な公共事業が多い」とする世論を背景に公共事業はこれまでも年々削減されてきました。公共事業に対する社会の不信感は根強く、・・・<中略>・・・批判や指摘が聞かれる一方で、地方の活性化に期待する声は少なくありません。㈱帝国データバンクが2009年8月に調査した「地方分権に関する企業の調査意識」によれば、民間企業の61%が中央集権体制から脱却した「地方分権」を支持し、60%が地方分権が地方圏の活性化につながる」と回答しています。・・・<中略>・・・国の事業を地方に移管すべきだとする指摘には、地元のニーズを理解している地方自治体に判断を任せることで無駄がなくなり、必要な事業が実施されるはずだとする期待感が根底にあることを見落としてはなりません。・・・<中略>・・・地元のニーズを踏まえた住民への説明力や判断力のレベルは、技術公務員の存在意義を左右します。技術力に基づいた即時の判断は住民の満足度や信頼性を高め、説明力の向上は民意との距離を縮めるに違いありません。@p.1、2、3、4

 

土木インフラの配置や規模は、将来の姿を俯瞰したものであるため、万人の賞賛中で遂行されることはない。

土木インフラの配置や規模は、単に目前の社会的なサービス要求を満たすばかりでなく、将来の国土や地域の姿を十分に俯瞰した内容である必要があります。・・・<中略>・・・公共事業の広い役割を考えると、担当する役所には国民・住民への優しい受け身の立場ばかりでなく、時には大局に立った積極的な決断・実行が強く要請されます。歴史を振り返っても、公共事業が万人の賞賛の中で遂行された事例は皆無に近いといえます。そのため、見識に基づいた説明・説得と合意形成を図る統治的な理念・理論・スキルを必須アイテムとして養う必要があります。@p.9、10

 

魅力ある地域づくりを進めるためには、地域の歴史、伝統、文化を学び、個性と創意工夫を生かした公共事業が必要。

地方では、地域活力の向上が求められています。昨日を満たすだけの社会資本整備では地域の個性は生まれず、活性化が図れません。魅力のある地域づくりを進めるためには、地域の歴史、伝統、文化を学び、個性と創意工夫を生かした公共事業が必要です。地域独自の風土を学び取るとともに、地場資材を活かしたモノづくりを考え、土木インフラの整備の組み入れていく技術を身に付けるべきでしょう。@p.40

 

技術公務員は、公共サービスに求められる住民の要求に応えるため、行政の一般的な遂行能力に加え、専門的な技術力を蓄え、分かり易い言葉で説明しなければならない。

今日の公共サービスに求められる住民の要求は高度化しており、それに応えるために説明責任が大変重要となってきています。行政のゼネラリストである事務職員では対処できない、専門的見地からの判断や説明力が必要とされる時代になっています。この期待に応えるためには行政の一般的な遂行能力に加え、専門的な技術力を蓄え、分かり易い言葉で説明できる能力が必要です。そのためには自らを高めようとする自己研さん意欲に富み、外に向かって人材育成という人的資源の活用意識を持ち、さらに目標達成に向け行動する姿(パフォーマンス)を示す姿勢や行動特性(コンピテンシー)を持ち合わせた人材が求められています。@p.50

 

国と地方自治体の役割分担を押さえたうえで、権限移譲が行われるけれども、地方自治体に幅広い技術力が求められることは疑いない。

地方自治体は今後、多くの受け皿を用意しなければなりません。道路や河川の管理権委譲がわかりやすい例です。しかし、そうだとしても、どこまで受け皿となれるのでしょうか。例えば、技術力の問題があります。国土交通省はこれまで技術基準に代表されるような我が国の技術力の確保に向け、責任ある立場をとってきました。そのために多くの研究者を要請し、海外との技術交流を行い、産学官一体となった技術開発などを行ってきており、我が国の技術水準の向上に果たしてきた役割は大変大きいものです。地方分権の中で、このような国の役割まで地方自治体が受け皿となるのでしょうか。答えは否と考えます。地方自治体においては、研究者を養成する土壌が用意されてこなかったため、その受け皿がありません。地方分権の流れにあっても、明らかに国と地方自治体との役割分担があるはずです。このような国と地方自治体との役割分担を押さえた上で、地方への権限移譲を展開していくため、地方自治体にはこれまで以上の幅広い技術力が求められてくることは間違いありません。技術に対する姿勢もこれまでのような国に依存する姿勢であっては期待に応えることはできないでしょう。地方自治体の技術公務員の技術分野における自律が必要です。@p.68